「たての関係、よこの関係」
公園が、みなさんの姿であふれ返りそうににぎわった夏祭り花火大会でした。親子で家族で友だちどうしでと、笑顔につつまれた会場でしたが、その会場づくりに、朝早くから汗を流していただいたお父さんお母さんには、感謝の気持ちでいっぱいです。同時に皆さんのそんな姿を見るにつけ、私にとってエミール保育園が「誰のために」「何のために」あるのかを、深く考えさせられます。
8月も暑い日が続くと思いますが、元気に乗り切っていきましょう。
ところで、人間が持ってる数少ない本能のひとつに「群生本能」があります。要するに、ひとはひとりでは生きられず、他の多くの人々と共に生きていくということです。他の人々は当然自分とはちがった存在ですが、はっきりしているのは年令のちがいです。そこから「たて」「よこ」の人間関係が生れてきます。
まず「よこの関係」は、同じ年令でもあり比較的単純です。体格や能力もあまり変わらないし、行動を共にすることも多いので、お互いに理解しやすいでしょう。ただ、強い競争心・敵対心・嫉妬心なども生まれやすくなります。
これに対し「たての人間関係」は、年令がちがうだけにやや難しくなります。年令の上下によって、対応の仕方が異なってくるからです。年長者には敬意を、年少者には慈愛をといっても、具体的にどう表現するか仲々難しいものです。下手をすれば、両方から非難を浴びることになりかねません。
やはりこの何とも難しい人間関係を、うまく乗り切っていくためには、幼い頃からのトレーニングが必要です。そしてそれを可能にしてくれるのが、「家族関係」であり園での「たてわり保育」です。
園では、1才児はすでに2才児と、3才児は4才・5才と過ごしています。クラスには、
年令による差別化や異和感を思わせるものは一切ありません。実にみんな仲良くおだやかに過ごしています。というのも、年上の子は年下の子をこまめに世話してやり、わからないことを教えてやり、トラブルの仲裁役になっています。年下の子からすれば、クラスに小さい先生やお兄さんお姉さんがいっぱいいるので、安心して信頼しています。そして多くのことを学びます。これは、「たて」「よこ」のバランスが、うまくとれているということです。この子たちが、これからもっと広い社会に出て、多くのちがった人に接するとき、必ずこの経験が役に立ってきます。なぜなら、子どもの人格のなかに、人と接するためのノーハウが刷り込まれているからです。
理事長 江口 浩三郎より
「3才まで6割、9才まで9割」
「梅雨の晴れ間」といいますが、6月は晴れ間ばかりで、その分また今月は豪雨じゃないかと心配しています。
子どもたちにとっては、進級後だんだん調子が上がってくる6月の好天は有り難いようで、大・小の筋肉をさらに活発に動かしています。
それにしても、キラキラした目の輝きとくったくのない笑顔、それに大きな声がひびきわたるこの空間は、まさにパワースポットです。そのスポットに乱れがこないよう、しっかりと見つめていきたいと思います。
ところで、今回のテーマの6割・9割は、子どもの脳の発達の割合です。現代の脳科学は急速に発展していて、脳の発達・成長についても正確なデータが出されるようになりました。この数字から見れば、いかに生まれてから小学校2年生くらいまでの間が大事なことかわかります。特に0才から3才までの生活や行動には、充分な配慮が必要です。
それでは、順調に脳が発達していくための大切なポイントをいくつか挙げてみましょう。
〇 子どもの手や指を活発に動かさせる
人間の指先には、2万から5万の神経が集中していて、それが脳と直結しています。また親指が長かったり手首がクルリと180度回ることによって、精密な動きができます。だから脳への働きかけは、体の他の部分の動きとは比較にならないくらい大きいものといえます。モンテッソーリも「子どもの指を休ませない」と強く主張しているほどです。
〇 どんな活動も、自分で考えながらやらせる
これを私たちは「運動の意識化」と呼んでいます。良く体を動かすことも脳の発達には大事なことですが、ただデレデレ・ダラダラやっていても効果はありません。運動の目的を達成するためには、「何をどうしたらいいのか」、「そのためにどんな工夫をしなければならないのか」をいつも考えることです。そのためには、先生が子どもが充分に理解できる具体的な方法や考え方を教えながら、指導していくことが大切です。
〇 どんな時にも、子どもが自分の意思で前向きな気持ちを持って活動していく
脳からの命令は体の隅々にまで届けられますが、そのための神経をカバーする筒があります。この筒が弱かったら命令が届かず、体の動きは鈍くなります。この筒を強化するのが自発的行動です。脳の発達とは関係ないように思えますが、体の動きは脳のはたらきと不可分な関係にあるので「自分からすすんで」というのも大きな影響を持ってきます。
脳の発達の度合いは、人間形成の度合いに比例してきます。順調にいけば、8才ぐらいまでにその子の人格の9割ぐらいが形づくられるということです。8年くらいアッという間ですから、子どもには無駄なことをして遊んでいるひまなどはありません。なぜあんなに毎日毎日、何をするにも一生懸命なのかの秘密がここにあります。モンテッソーリが「子どもに学びなさい」と言ったのは、大きな意味があるんですね。
理事長 江口 浩三郎より
「みんなといっしょに生きていく」
早くも6月となり、夏がやってきました。おとなはいささかゲンナリですが、子どもにとっては思い切り汗をかき、水とたわむれる最高の季節です。いつも目の前にいながら住む世界が全くちがうとは、何と不思議なことでしょう。子どもの目に写るもの、気持ちに問いかけてくるものは、異次元のものかも知れませんね。元気よくにぎやかなショータイムみたいなもので、だからいつまでも見てあきのこないものではないでしょうか。
ところで、新学期になってこの時期になると、クラスの空気もなじみが出てきて、子どもたちはスイスイと泳ぐように動いています。また園庭では、ぶつかったり大声を出しながら、みんなの間をかけまわっています。これはまさにひとりででは出来ない、みんなといっしょにいるからこその現象です。
ヒトには群生本能があり、他人との共同生活のなかで生きていきます。そのためには、幼い頃から他人の中で良く生きるための方法を学ぶ必要があり、具体的には次のようなことが挙げられます。
○「他人と自分のちがいを知る」
人はどんなに沢山いても、自分と同じ人はいません。だから他人とつき合うことは、自分とのちがいを知ることになります。そして、同じでないから面白い。ちがっているから許してあげる。自分にはなく他人にあるものから、多くのことを学ぶことができる、などの利点があります。
○「他人との間(距離)の取り方を知る」
ちがう人間どうしが、生活空間や活動を共にする時は、お互いの間の取り方(距離のはかり方)が大切になってきます。そしてこれこそ、自分を取りまく多くの人たちとの経験によってしか学ぶことができません。失敗したりうまくいったり、泣いたり笑ったりして得たものこそ、生きていくための貴重な財産(知恵)として、自分のなかに蓄積されていくのです。
○「役割りの分担があることを知る」
ひとりひとりのちがいは、能力・才能にもあらわれます。だから、みんなといっしょに何かを成功させようと思ったら、その得意なところを知り出してもらう必要があります。自分を活かし他人を活かすための知恵が、また養われていくことでしょう。
集団生活でみんなといっしょに生活できる知恵を豊かに養ってきた人は、ひとりで生活したり活動することも自然とやっていけます。
なぜなら、いつでもどこでも自分の心の中にも、共に歩める人たちがいっぱいいることを知っているからです。人生でこんな心強いことはありませんが、これもみんな、幼い頃からの集団生活のおかげであるといえるでしょう。
理事長 江口 浩三郎より