「こままわし大会にて」
あっという間に年度末です。近隣の梅の花がきれいに咲いたな、と思っているのも束の間、すでに桜の木々が春の開花に向けて芽吹いてきているようです。
さて先日、雨のために延期になっていた毎年恒例の「こままわし大会」が開かれました。
この大会、エミールではかれこれ30年以上続いている子ども達だけの密かなお楽しみ行事です。子ども達の中には、春先から外遊びの時間にずっと回している子がいるかと思えば、まったく興味のない子もいますが、大会の日にはそれぞれの立ち位置で楽しんでいる姿が印象的でした。
「こま回し」は、昔ながらの書き方では「独楽回し」と書くそうなのですが、子ども達を見ていると、「一人で楽しむ」だけでなく、多いにその異年齢の集団から学び、「皆で楽しむ」姿が見られます。
さて大会開始前、慣らし練習をしている子たちを見ながら「園長先生も昔は回せたけどね…」とつぶやいている私に、「これで回してみ!」「こっちも使っていいよ!」と、しっかりと紐を巻いてくれたコマがいろんな子から次から次に手渡され、回してみると、「あ〜残念残念」「もう一度これでやってみ!」「お〜できたね〜」などなど、下手な私にたくさんの声援を送ってくれ、少し前までは自分のことで精一杯だった子ども達が、こんなに思いやりを持って声をかけてくれるようになったその成長ぶりに感動ひとしおでした。
また、大会後、入賞したばかりの年長の男の子達に「今日はよく回ったね〜」などと声をかけていると、「もっと上手な人おるけん!」「きいろさんの〇〇くんの方がすごいとよ!」「来てきて!」と、手を引っ張って更なる名人のところに案内され、「〇〇くん、回してみて〜園長先生に見せてやって!」と紹介してくれました。
そしてもう一つ。ある年中の子は、「先生ちょっと来て。あそこで〇〇くんが泣いてるよ、悔しかったとよ…」と山小屋の中で密かに泣いていた年長の子を気遣って教えてくれました。
こんなコマ回し大会の中での一連の出来事で、私は園にもよく遊びに来てくださっていた故 相良敦子先生の著書『モンテッソーリ教育を受けた子どもたち』(河出書房新社)に書いてあるその共通項がすぐに頭に浮かびました。それは「人の立場を考える。思いやりがある」また「人の長所を見つけてほめる。人の成功を喜ぶ」という特徴です。年度末のこの時期、こんな素敵な姿を見せてくれる子ども達に、本当にすごいなと感動すると同時に、今後またどんな進化を遂げるのかなと本当に期待にワクワク胸が膨らむ思いでした。
さあ、また来年も子ども達の成長には目が離せませんね。ご一緒に、よき援助者として、楽しみながらその成長を見守っていきましょう!
園長より
「子どもの意思を大人の意思とすり替えない」
「子どもの精神の健やかな成長にとって1番の障害となるものは、大人がその子の意思を自分の意思とすり替えてしまうことである」とはモンテッソーリの言葉です。これを頭で理解することはできても、なかなか実践は難しいものです。先週、このことを思い知らされるようなある出来事がありました。1月初旬よりホールで開かれている恒例の『6歳コーナー』でのことです。
さらなる興味を掻き立ててくれる材料でいっぱいのこのコーナーには、各クラスの5歳児の多くが毎日嬉々として自分の意志でやってきます。私がお手伝いに入ったその日、少しやんちゃな印象の男の子がやってきて、うろうろとしていたので、「元気な男の子=恐竜などが大好き」というようなこちらの勝手な先入観で「恐竜とか調べてみる?」と誘ってみましたが、答えはNO。その後、みずから『ビーズで指輪作り』の本を持ってきて、指輪作りに取り組み始めていました。
その後30分ほど経ってから、「先生ここから先がわからん…」と呼ばれたので、使っていた本を見せてもらうと、なんと、確かにものすごく込み入った手順の図があり、できれば解読してあげたかったのですが、どうしようもありません。それまでに誰も作り上げたことのない大きな宝石(ビーズ)が冠のように真ん中に乗っかる指輪は、到底手に負えない感じでした。
そして、ここでも、こんな複雑なものはまだまだ無理じゃない?という勝手な先入観から、「これはちょっと難しすぎるみたいよ…他のもっと簡単なの作ってみれば?こっちとか?」と他のよりシンプルな指輪へ誘導しようとしてみたのですが、それもNO。私の元をさっさと立ち去り、その後も諦めることなく長い時間集中しながら作り続けていました。
その日の活動時間も終わりに近づいてきた頃、その子が素敵な指輪を作り終え、「できたよ!」と見せに来てくれました。その時の喜びに満ち溢れた満面の笑み!そして、子どもの底力に本当に驚かされると同時に、簡単に他のものに誘導しようとした自分の浅はかさを振り
返り反省しきり…。このケースでは、子どもがしっかりとした意志を持ち、私にはっきりとNO!と言えたからまだよかったですが、そうでもなければ、まさに大人の意思を子どもの意思とすり替えて失敗する好例となっていたでしょう。
子どものためにと大人が先回りして何かしら充てがってしまう事が、子ども自らが育つチャンスをどれほど邪魔をしてしまっているのか、もっともっと意識しておくべきだな、と強く感じた一件でした。
その日の終わり…、指輪を作った男の子に「お母さんにあげるの?」と聞くと、「ん〜自分用♡」と、早速指にはめた感じを見せてくれました。令和です(笑)。
園長 より
「バランスの良い人を育てよう」
明けましておめでとうございます。
本年も子ども達の健やかな成長を願い、職員一同気を引き締めて頑張ってまいりたいと思います。どうぞまた一年、よろしくお願い申し上げます。
さて、このお正月、皆さんはどんな日々をお過ごしでしたでしょうか。私は全国高校サッカー選手権に釘付けの日々でした。というのも、エミールの卒園児さんが、佐賀東高校で1年生ながら出場!持ち前の体力と瞬発力を駆使し、周りの動きを瞬時に把握してパスを回しゴールを目指す姿には、本当に胸が熱くなる思いでした。ほんのこの前まで園庭で走り回っていたのにと思うと、感動もひとしおです。
エミールの卒園児さん達の中には、他にもたくさんのスポーツ分野で活躍している子どもたちがいますが、その保護者の方々から聞く話の中に、ある共通点があります。その共通項をあげてみますと、1) 本人の意志で続けている、2)集中力がある、3) 全体を見ながら動くことができる、4) キャプテンなどリーダーに任命される、などです。
もうピンときた方もいらっしゃると思いますが、どこかモンテッソーリ教育で育つ子どもの姿と重なって見えてきますね。それもそのはず、上に挙げたいくつかの共通項は、「自分で選んだ本当にやりたい活動」を「繰り返し集中して体験(手や身体を動かす)」することによって大きく育つ「前頭葉(脳の前側)」の機能によるものだからです。
前頭葉の機能には、以前にもお話ししたように、一番の特徴的な機能である「抑制力(セルフコントロール)」がありますが、それ以外にも「柔軟性」「計画力」「問題解決力」そして「継続力」「俯瞰力(全体を見てとる力)」などが挙げられます。また6歳までの幼児期は、この前頭葉の育ちを方向づけるにあたってとても重要な時期であると言われています。
私たちの現場でも、子ども達は盛んに手や体を動かし、さまざまな体験を通して発見し、探求し、そして集中することによって、この脳の前側、前頭葉を大いに刺激してこれらの機能を強化しながら自らを成長に導いて行っていますが、これこそまさにモンテッソーリの言う「調和のとれた人格形成」の大きな基礎となるものです。
そうやって育ったエミールっ子達、スポーツはもちろん、学術、芸術など他のさまざまな分野でも大いにその持って生まれた可能性を開花してくれることでしょう。それぞれの子どもにその日が来るのを心待ちに、ご一緒にその成長の応援団の一員として、大きなエールを送りましょう!
園長より