「クラスの環境-三角関係」
わずかな雨しか降らずに梅雨明けしてしまいましたが、この夏の水加減はどうなるのでしょうか。加えて、コロナにウクライナ、桜島の噴火と、心の休まるひまもありません。永い歴史の中で今生きているとでも、考えておきましょうか。
それでも、蝉しぐれに向けて、木の枝に鋭い目を向けている子どもの表情は不変です。
この子どもたちが、まだ幼いながらも大きな存在であると感じるのは、私だけではないでしょうね。
ところで、日本の学校のクラスでは、時間割りに沿って、先生の授業を学ぶという形が殆どです。そこでは、先生→生徒という一本の線しかありません。これに対しモンテッソーリクラスでは、「子ども」「先生」「環境」が三本の線でつながれた三角形をしています。というのも、あくまで子どもの自由意思を尊重し、自主性・自立性の実現を目指しているからです。それでは、三本の線の具体的なはたらきを見ていきましょう。
① まず「先生」は、クラス環境を準備します。何が子どもの成長を促すために最適なのか、不必要なものがないかを厳しく選び分け、また、どんな配置をすれば子どもが活動しやすいか(これを「動線」といいます)、常に配慮していきます。環境の主役はモンテッソーリ教具で、全ての子どもの敏感期を、充分に満足させられるように考え抜かれています。もちろん、色・形・重さも子どもにぴったりです。
② 次に「子ども」と「先生」の関係ですが、先生は自分のクラスで、子どもがどんな人間に育って欲しいか、はっきりとした意識を持つ必要があります。そのためには子どもを深く観察し、子どもの隠された長所を、どんどん導き出さなければなりません。だから正式には「ティーチャー」ではなく「ディレクター」と呼ばれているのです。自分をひとり前の人間として認めてくれる先生を、子どもは大好きです。クラスの中は、信頼関係であふれています。
③ 子どもは、誰からの指図も受けずに、自分の意思で教具を選び活動を続けていきます。もちろん教具の取り扱いに不慣れの場合は、先生の手助けを借りてもかまいません。ただ、自分のやりたいことを自分のペースでやれることは、どれだけ子どもの自尊心をくすぐり、自己肯定感を高めることでしょう。いつ見ても、クラスに平和な充実感が満ちあふれているのも、うなずけるものがあります。
モンテッソーリは、「新しい教育」から「新しい子ども」が生まれてくると言いました。「新しい子ども」とは、自分自身をひとりの人間として大事にし、自分の意思で行動をコントロールできることを言います。それを裏付けし押し進めていくのが、この三角関係です。クラスの子どもはこの環境になじみ、すっかり自分のものとして活動しています。「新しい子ども」の誕生を、毎日すぐ近くで見ていられる程、楽しいものはないですよ。
理事長 江口 浩三郎より