「成長を導いてくれるいくつかのルート」
早めに咲き終わった藤の花に代わり、こいのぼりが、青空のもとで気持ちよさそうに泳いでいます。また、園庭のけやきの青葉もすっかり生い茂り、大きな木かげを作ってくれています。たとえコロナ禍のもとであれ、季節の変化は変わりなく、子どもたちの元気な活動も、全くかげりが見えません。多くの仲間との長時間の接し合いが、免疫力を生み出しているのでしょう。子どもの天国の雰囲気を保っていけるよう、私たちも気を配り続けます。
ところで、毎日目の前で元気に活動している子どもたちが、みるみるうちに成長していく姿には、目を見張るばかりです。しかし私たちが、ただ黙って見ているだけでは、正しい方向へ進んでいくとは限りません。子どもの成長の特徴をよく学び、よく観察して導いてやるからこそ、内容の伴った成果が望めるのです。そのためのルートがいくつか考えられますので、ご紹介しましょう。
① まず第1は「敏感期」です。これは、0才から7才頃までに表れる、あることがらに夢中になる時期で、子どもは次から次へとマスターしていきます。例えば0才から5才の間の「運動の敏感期」では、とにかくいつも身体を動かし続けて、筋肉の正しい使い方を覚えていきます。0才から3才位までの「秩序の敏感期」では、やたらと小さいきまりや規則にこだわり、自分の中の秩序感を育てていきます。2才から6才頃までの「感覚」や「言語」「算数」の敏感期には、その対象となるものを、大した努力もせずに理解していきます。面白いのは、5才から7才までの「文化」に関することで、これまでより広い視野で、宇宙・地球の歴史・地図や国旗・動物や植物の種類・世界の文化などに、目を輝かせて取り組んでいます。
② 次は、それぞれのモンテッソーリ教具が持っている「系統性」です。「感覚」「言語」「算数」の教具は多種多様ですが、「系統性」といって、子どもたちが進むべき順序がはっきりと示されています。内容的には、「単純なものから複雑なものへ」「具体的なものから抽象的なものへ」「ひとつの作業が次の作業の手がかりとなって準備されている」ことなどです。子どもたちは、無理なく自然にこのルートをたどっていきます。
③ さらにもうひとつ、「たてわり保育」の中で生活することによって、いろいろな仲間の成長を身近に見ていくことができます。子ども時代は、1才の年令ちがいで大変な差が生じますから、その差を毎日身近に感じながら、後をたどっていけばいいのです。
子どもの脳は、8才までに90%成長するそうですが、成長のための良い環境の中でしか、中味のつまった脳はできあがりません。今回述べたいくつかのルートは、まさに良い環境の好例なのです。自分たちの生活のなかに、このルートがしっかりと敷かれているからこそ、あのはつらつとした成長ぶりを見ることができるのです。
理事長 江口 浩三郎より
「自分で考える子どもが一番伸びる」
新入園児も進級園児も、成長への願いで胸をふくらませて活動が始まる新学期が始まりました。昨年から続いたコロナ禍は、まだ依然として続いていますが、子どもたちの集う場は別世界です。なんの雑念もなく、今のこの時と目の前にある環境のなかで、全力を尽くしています。短い時間で、自分の成長をはっきりと感じていきます。驚きと新鮮さでいっぱいなのが、子どもの世界なのです。さあこの1年、この世界に入れてもらって、みんないっしょに楽しんでいきましょう。
ところで、よく新聞などで目にすることですが、「厳しい指導をやめて、選手自身で考えさせて練習するようになってから、チームがぐんと強くなった」という話です。選手個人の自主性、自発性の尊重が、各監督の指導と同じ結果をもたらしたわけです。そしてこのことは、子育てにもぴったりとあてはまります。
① 私たちおとなは、子どもがまだ未熟で幼稚なものとして、つい口を出したり手を出したりしがちです。必要最低限ならいいですが、つい度を過ぎることが多くなりがちです。「自発性」「積極性」のかたまりである子どもにとって、こんな迷惑なことはありません。モンテッソーリは先生に必要な資質として、「愛情」「信頼」「忍耐」「謙虚」を挙げていますが、要は、一歩下がって子どもを暖かく見守りなさいということです。このことが、後になって大きく後悔するかしないかの分かれ道になってくるのです。
② 自発性に満ちた子どもは、毎日「何をやろうか」「どんな道具を使おうか」「どんな手順でやろうか」「誰といっしょにやろうか」を考え続けています。そのことが実行可能となるように、子どもの成長に必要な環境を整えておくのが、私たちの役目です。幸いなことに、子どもには「敏感期」があるので、どの子がいつ頃どんな活動をやるのかの予測は可能です。そのためには、先生がひとりひとりの子どもをよく観察し、その子の順調な成長への足どりを、常に確かめておく必要があります。
③ こんな環境で育つ子どもは、「愛情に満ちた幸福感」を味わいます。また「自発性」や「環境」に刺激されて、脳が順調に発達していきます。自分の活動に自信を持ち、成果を喜び、さらにチャレンジ精神を発揮していきます。そして、自分がどんな人であるかを確かめていくのです。だから、「口を出さず」「手を出さず」に見守っていきましょう。子どもといっしょに、実りある人生を楽しんでいきましょう。
理事長 江口 浩三郎より
「未来のひらくためのいくつかの鍵」
暖かいおだやかな日射しがあふれて、春が来たと感じさせるようになってきました。北国の大雪の様子をテレビで見るにつけ、何とも九州は有り難いところですね。
この3月でお別れするみどり組さんも、これまで毎日目いっぱい活動を続けてきたので、心を残すことはないでしょう。将来記憶に残ることは少なくても、その分私
たちはしっかりと見届けてきました。実に良いスタートを切れたと確信しています。
ところで、人には誰でも、生まれつき備わっている優れた能力(長所)があります。2才児なのに、サッカーボールをうまくけったり、3才児でも、きれいなフォームで走ることが出来たり、音譜も読めないのにカラオケがうまかったりすることです。子どもたちがこれから長い人生を歩んでいく時、自分の長所をいかにうまく伸ばし活用できるかによって、人生をコントロールすることができます。そのためには、幼い時からのトレーニングが必要ですから、そのポイントをいくつか挙げてみましょう。
①自由意思に基づく自己選択能力…自分が持つ長所は、自分自身で見つけなければなりません。そのためには、他人の意思で行動するより、自分の気持を大切にしながら、目標に向かって進むことです。子ども園での毎日の活動は、まさにそのことを実行しています。登園するということは、自己実現のためということです。否応なしに自分で選び自分で行動していくことのなかで、真の自分というものを発見していきます。
②次に、今は出来ないけれど、練習すれば出来るようなことに向かってチャレンジする気持です。幸いというか当たり前というか、子どもはまだできないことだらけで、それだけにやる気満々です。また回りの友達もみんなやる気満々です。目標に向かって進むなかで、解決すべき課題も見つかります。身体の動かし方も身につけてきます。
そのなかで、何が自分の得意なのか、どんなところに興味が向いていくのかを発見していくのです。
③また、人間社会での連帯感を養っていくことです。人はひとりでは生きられません。常に他人との関係が必要になってきますが、できれば良い関係の中で生きてみたいものです。子どもたちは、その人間関係の初歩を学んでいます。年令や性別、体格、性格がそれぞれ違う仲間と、一日中接しています。自分を通せる時もあるし、我慢する時もあるでしょう。時には負けることもあるし、気が合わないと感じることもあるでしょう。全てが将来に向けてのトレーニングです。その中で、自分自身を感じ取ることができるようになるのです。
みどり組さんは、園での最後の月となりました。クラスでも、園庭でも、6才児コーナーでもその姿を見ていると、これまで述べたポイントを身につけた活動ぶりを、充分に感じさせてくれます。永い未来を開いていくための準備はすっかり整えたと、自信を持って言うことができます。
理事長 江口 浩三郎より