「子どものくらしは自分づくり」
明けましておめでとうございます。
通常ならば、新年のお祝いとか今年の希望などに考えをめぐらせるところですが、今のところは、新型コロナがいつ収まるのか、ワクチンの接種がいつから始まるのかしか思い浮かびません。
そうは言っても、明るく元気な子どもたちの姿にこそ、未来の日本や世界の希望が満ちあふれています。今年も、この子どもたちのために最善のくらしを約束すること、これが私の進むべき道であることははっきりとしています。
ところで子どもたちは、毎日おとなの何倍も身体を動かし、楽しそうに遊んでいるように見えますが、実はそうではなく、現実の目標は「自分を創っていくこと」にあります。
なぜなら、殆ど空白の状態で生まれる赤ちゃんは、8才までに90%できあがる脳の発達に合わせて成長していく必要があり、とてものんびりと遊んでいるひまはないからです。
自分づくりの第一歩は、何といっても身体づくりです。それも、ただ単に大きくなるのではなく、自分の思いどおりに動かせる身体をつくることです。チャレンジ精神を保ちつつ、自分で考えながら動いていくトレーニングを続けることによって、身体の動きをコントロールできるようになります。
次に知性の発達、すなわち自分の頭の中を整理し、自分で考え問題点を解決していく力をつけることです。「論理性」や「抽象性」の獲得が目的ですが、このためには、モンテッソーリの教具が大いに役立ってくれるでしょう。
もひとつ大事なことは「社会性」です。人間には群生本能があるので、多くの他人のなかでもまれながら、上手な付き合い方を学んでいかなければなりません。こども園での生活は、まさにぴったりですね。
こんな子どもの自分づくりに対し、大人の適切な手助けがあれば、その効果はぐんと大きなものになります。
その第一は、子どもの人格を尊重し、自由意思による活動を認めることです。私たちはこれを「自由活動保障の原則」と呼んでいますが、これによって子どもはまさに自由でのびのび、生まれ持っている自発性を生かしながら他の人の自由も尊重し、平和共存の道を歩いていけるというものです。
もうひとつのおとなの役割は環境の整備です。おとなが、いくら口先だけで「自由にやりなさい」「知性を伸ばしなさい」と言っても、それを実現させる環境がなければ無意味です。
子どもが毎日の生活の中で、無理がなく喜んで取り組める環境の整備こそ、おとなの知恵のしぼりどころだと言えます。
これまで述べたことがうまくかみ合ってくると、子どもの成長は「良い人間」になる方向へ向かいます。子どもの動きを見るのが、私にとって大きな楽しみとなっているのは、そんなところに理由がありそうですね。
理事長 江口 浩三郎より
「ママ、ひとりでできるように手伝ってね」
ソフトバンクが巨人をコテンパンにやっつけて、多少はコロナのうさばらしが出来たような気がします。それにしても今年は春以降、良いニュースが少なかったようです。まだまだ見通しは明るくなりませんが、私にとっての大きな救いは、目の前で見る子どもたちの明るさと元気の良さです。社会のムードがどうであれ、ひたすらに自分づくりに励む姿には、ただただ感動しかありません。保育という仕事は、何と素晴らしいものなんでしょう。
ところで数年前に亡くなられた相良敦子先生は、モンテッソーリ教育が家庭でも理解、
実践できるような著書を、数多く執筆されています。その中でも特に多く読まれているのが、「ママ、ひとりでできるように手伝ってね」です。シンプルなテーマではありますが、実はモンテッソーリ教育の全てが表現されているといっても、言い過ぎではありません。その理由を述べていきましょう。
まず子どもの一番の特徴は、生まれつき誰でも、自分の力で成長しようとする能力を持っているということです。休むことなく動き回り、周囲の環境に触れたがり、身近な人の話すことばや行動を真似したりして、どんどん自分の中に取り込んでいきます。又、次々と敏感期が訪れて、秩序や運動、感覚、言葉などの習得に夢中になります。まさに自分で何でもできるようになるために、「自己教育力」を身につけているのです。
それではこんな子どもたちのための、私たちの役目は何でしょう。
まず第一に、この貴重な能力を発揮するのを邪魔しないことです。子どもはまだ小さいからといった目で見ずに、ひとつの人格を持った人間として認めてあげましょう。自発性を尊重して、子どもが自分の意思で自由に援助できるようにしてあげましょう。いわゆる「過保護、過干渉」は絶対に禁もつです。
次に、子どもの敏感期を満足させるような環境を整えてあげましょう。全てに対応するには大変なことですが、園では可能な限りの努力をして応えてあげています。
さらにその環境に、無理なくなじませてやることも大事です。そのために先生は「提示」をします。子どもの発達段階や興味の度合いを確かめ、子どもの意思に沿って環境の意味を理解させていきます。
子どもの自発性とおとなの配慮がうまくかみ合えば、生まれながらに持っている良い素質が、どんどん表に現れてきます。これを「正常化」と呼んでいますが、立派な人間、良い人格者となるために磨きをかけているのです。
毎日、子どもたちの明るい笑顔と活発な行動を見ていると、相良先生の伝えが、心から感じ取れるような気がしますね。
理事長 江口 浩三郎より
子どもへの宿題『敏感期』
いよいよ秋も深まりをみせ、園庭のけやきの落葉も目立つようになりました。コロナも、日本では随分落ち着いてきましたが、世界的にはまだまだのようです。
園庭での活発な活動も相変わらずですが、特に目を引くのは砂場の中です。そんなに広くもありませんがいつも満員状態で、しゃがんだり中腰になって砂とたわむれています。まさに想像と創造の世界ですが、子どもたちの心を満たしてくれるものがあるんでしょうね。
ところで子どもたちの活動を見ていると、疲れも知らずに休みなく動き回ったり、教えもしないのに話せるようになったり、昆虫や恐竜に興味しんしんといった姿を目にします。
これは、幼児期のどの子にも現れる「敏感期」という現象で、この時期を通りすぎながら、子どもはみるみるうちに成長していきます。それでは、いくつかの事例を紹介しましょう。
・「話しことばの敏感期」…1才から2才半にかけて、子どもはまわりのことばをどんどん吸収し、自分でも話せるようになります。
・「運動の敏感期」…0才から4才位まで続きますが、始めはどんな動きがあるのか、人真似をしながら身につけていき、その後は、自分で自分の動きをコントロールできるように動き回ります。
・「感覚の敏感期」…0才から2才半ぐらいまでは、自分の感覚器官を使って環境をさぐっていきますが、その後6才の頃までは、感覚の洗練と非理することに努めます。
・「書くことや数の敏感期」…4才から6才にあらわれ、文字や数字のはたらきに大きな興味を示してきます。
こんな敏感期についてモンテッソーリは、「神が子どもたちに与えた宿題」と呼びました。宿題だからやらなければなりません。その結果は大きいもので、子どもたちの知性の発達に影響を及ぼし、論理的思考能力・自己教育力・継続し集中した活動能力を身につけることができます。その反面宿題を忘れたときは、どんなことにも自信を持てず動きも不器用で、最後は自分自身の存在を否定された気持ちにもなりかねません。
そうならないように、おとなは子どもの宿題を助けてやらなければなりません。いろんな敏感期を満足させるような環境づくりは当然ですが、それぞれの時期に応じて、無理なく自然な形でその環境になじませてやることです。
毎年どの子どもたちにも、自信と誇りに満ちた姿で卒園していきますが、与えられた宿題を全て終えたという安心感がそうさせるのでしょう。
理事長 江口 浩三郎より