「この宝ものをどう磨いていくか」
新型コロナウィルスの感染状況も少し収まった気配ですが、何とかこのままで終わってもらいたいものです。また、これまで園児や職員にも感染者が出ずに、心の底からホッとしています。
複雑な気持のこの頃ですが、それを救ってくれるのが、子どもたちの大きな声と明るい笑顔です。救いの神は天の上ではなく、すぐ身近にいるんですね。こども園は子どもの天国ではなく、子どもが天国のムードを生みだしているのがよくわかります。
ところで、コロナニュース以前のことですが、あるところで、10人くらいの家族の集まりに出会いました。その中心になって皆さんから声をかけられ、笑いが渦まいていたのは、1才半くらいの女の子です。まさに、他に代えることのできない最高の宝ものいう感じがしました。
ひるがえって、こども園や子どもの家を見渡すと、この宝ものでいっぱいです。「さてさてどうしたらよいものか」と思いますが、宝ものである以上、ひとり残らずしっかりと磨きあげ、キラキラと光り輝かせていかないといけません。
そのためにはまず、たとえ幼くとも、立派な意思を持つひとりの人間として認め、対等に付き合っていくことです。先生の意思を押しつけるのではなく、子どもの話に耳を傾け、役に立つことはどんどん取り上げていきます。そうすれば、子どももいつも自分で考えるようになります。意思の力を磨きあげていきます。
もうひとつ、宝ものである子どもというものは、どんな特色や傾向を持っているのかを、しっかりと研究し観察して知っていなければなりません。たとえば、どの子も生まれつき自発的に成長していく力を持っていることを知れば、それをどんどん伸ばすことです。毎日の時間の過ごし方も、おとなが決めてはいけません。活動の内容も、自分で遊び自分で展開させていくことです。
さらに、次々とやってくる「敏感期」を、満足させる環境を準備しておきましょう。子どもたちは、与えられた宿題をこなしながら、自分の成長を実感するはずです。そして、ひとりの人間として自分と向き合い、自分を知っていくことになります。
何だか、おとなが手を出すことはあまりなさそうですね。そうです。あまり口を出さず、手を出さず、ただ慈愛の心で大きく包んであげればいいのです。包まれた子どもの心は暖かくなり、暖まったものはさらに磨きやすくなるのです。
今日もまた、園内は宝ものでいっぱいになりました。ひとりひとりがキラキラと輝いて、目をあけれないくらいまぶしいものですよ。
理事長 江口 浩三郎より
「一生続く学びのサイクル」
桜がようやく、ちらほらと咲き始めました。モクレンも白い花でいっぱいです。またけやきの木の枝にも、かわいい若葉が芽を出しています。人間社会はコロナウィルスで大騒ぎですが、自然界はいつものとおり大にぎわいです。ここにまた、新しいお友だちが加わったらどうなるのでしょう。まさに、新しい生命のエネルギーであふれかえることでしょう。
さあ新学期の始まりです。子どもたちの毎日の成長を、心ゆくまで楽しんでいきます。
ところで、人間は生きている限り、自分の居る場所や経験から学び続けていきますが、良い学び方をし良い結果を出すための基本的サイクル活動は、子どもの頃に実体験をしておく必要があります。そのサイクルは、次のような順序で展開されていきます。
① ひとりひとりの発達程度に見合った環境が準備されており、タイムリーにそれに出会う。「ひとりひとり」と「タイムリー」がポイントで、そのためには、おとなの鋭い観察力が求められます。
② 環境から、自分の興味・関心があるものを選択し、繰り返し活動し集中していく。まわりから強制されない自由な活動は、「自発性」を満足させ促していきます。
③ 活動のなかで、成功したり失敗したりあれこれ工夫するなかで、「意思力」が形づくられていく。前に進むだけではなく、時には耐え忍んだり、時には譲歩したり、また中止したりと、さまざまな気持の動かし方を学んでいきます。
④ 自分の身体を、自分で思ったとおりに動かせるようになる。活動は運動を伴います。困難に向かい細部にも気をめぐらせているうちに、意思の命令どおりに動く体が作られていきます。
⑤ 自分のペースで物事を運んでいくことを身につけ、どんな環境にもうまく適応できるようになる。他人に左右されない自分独自の判断力があれば、環境の変化があっても、ある程度安心して対応していくことができます。
⑥ いろんなちがった人たちとの生活のなかで、豊かな社会性が身についてくる。それまで自分中心であったのが、少しずつ他の人間が見えはじめ、そのつながりのなかで、自分の態度や行動、そして性格までが形づくられていきます。
⑦ 自信にあふれ落ち着きが出て、素直で従順な自分を発見することができる。まさに、自分が良い人間として変わったことを実感する時です。
人は誰でも、素晴らしい人間に成長する可能性を秘めています。しかし、何の学びや努力なしには実現しないものなので、やはり子どもの頃から、このサイクルをしっかり体験させてやりたいものです。
理事長 江口 浩三郎より
「ひとつの山の頂上へ」
本来なら、心を弾ませるような春がやってきたというのに、新型コロナウィルスのおかげで、暗いニュースばかりが続いています。人の歴史のなかで、いろんな病原菌との闘い が繰り返し表れているので、これも仕方のないことなのでしょうか。
それはともかく、この1年間の子どもたちの成長ぶりを、またまた見せつけられました。
毎日が新鮮だったということは、毎日新しい生命力が生まれ続けてきたからでしょうね。
ところで、この3月で卒園するみどり組は、ひとつの大きな山を登り切りました。人間の成長段階では、いくつかの山を登らなければなりませんが、特に最初の山は大変です。何しろ、たった6年間で脳の8割を完成させ、人格の大きな土台を創り上げなければならないからです。その土台の具体的な内容を、ここでいくつか挙げてみましょう。
① 自分の意思で考え判断し実行する生活を続けたことで、自立し自由な生き方への道が開けたことです。これは、自分がひとりの人格を持った人間として尊重されることで、幸福の第一条件です。寛大な気持で他人を愛し、許していくという気持も備わっています。
② たくさんの自分とちがった他人といっしょに、うまくバランスを取りながら生活していけるようにもなりました。社会生活とは、「ちがった人と同じ道を歩く」ことですが、これが中々難しく、時には道を踏み外すこともあります。そこをうまく避けていく基本的な智恵は身についたのではないでしょうか。
③ 自分の身体を、自分の想いどおりに動かせるようになってきました。生活とは動作の連続ですが、これが不器用だったら苦労します。生まれてすぐは人の世話になるばっかりだったのが、決してあきらめないチャレンジ精神のおかげで、今では実に見事な身体の動きを見せてくれるようになりました。
④ 目に見えない奥深いところで、「自己尊重」「自己信頼」「自己肯定」の感覚が根づいており、自分の誇りや生きていくための自信となって表れています。これは、「いつでもどこへでも行けるぞ」「何でもできるぞ」といった表情にあらわれています。
それにしても今年のみどり組からも、沢山のことを学ばせてもらいました。本当に、山登りの上手な子どもたちばかりです。卒園したらそれぞれの学校に分かれて、また自分で見つけた山に登り続けることでしょう。自信に満ちたそのうしろ姿を、いつまでも見つめていたい気持でいっぱいです。
理事長 江口 浩三郎より