「自由に活動する子どもは規律をよく守る」

満開の桜の次はつつじ、そしてこれからはあじさいと、コロナ禍のもとでも、自然の美しさは私たちの目を楽しませてくれています。
先日の園内遠足では、園庭じゅうにお弁当をひろげて、おしゃべりの輪が広がっていました。バスでの遠足が出来ないのに不平も言わず、目の前の環境を楽しもうとする姿には、本当に感心させられると共に、教えられることばかりです。
ところで、あるモンテッソーリ園の公開保育の時、他園からの園長数名がクラスの中を見ながら、「こんなに子どもを自由にさせていたら、保育がグチャグチャになるね」と話してるのを耳にしました。確かに、先生の指示のもとで動いていく一般の保育からすれば、そんな感想も当然のことでしょう。そしてその先生方の頭の中には、「自由と規律はコインの裏表」という大原則が、思い浮かばなかったからでしょう。
モンテッソーリ教育では、「自由を子どもに」が一番大きな目標です。しかし活動の全てが未熟な子どもたちにとって、正しい道しるべがなかったら、迷子になってしまいます。そうならないために、「クラスでのお仕事がうまくいくように」「日常の生活すべてをスムーズに進めるように」「友だちと仲よくできるように」と、ルールづくりに配慮していかなければなりません。
子どももまた、人格のなかの秩序性を形づくるために、秩序正しい規律が整えられた環境を求めています。また、自分だけでなくまわりの友達の自由な活動を侵さないために、決まりが必要なことがわかってきます。決まりを上手に守ることで、仲間がいっぱい増えていくからです。「自律心」「自制心」「忍耐力」といった大切な資質は、規律ある環境の中で過ごしながら育っていくものです。
それでは、どんな環境から規律を学ぶかと言えば、何といってもモンテッソーリ教具への取り組み、いわゆるお仕事です。「場所をきちんとしておく」「順序どおりにする」「他人のじゃまをしない」「大切に取り扱う」等のルールを守らないと、結果を出すことはできません。また、クラスの中で話し合ったルールも生まれてきます。「遠足のときの行動」「プール活動の順序」「発表会の練習の内容」等、子どもたちは自発的に考えたルールを厳しく守っていきます。
自由な活動が許されていることは、子どもにとって自分が一人の人間として認められ、尊重されていると感じることで、幸せな気持になります。それだけに、自由の実現のための規律の尊重は、当然理解ができて実行しなければならないと感じているはずです。
理事長 江口 浩三郎より
「成長を導いてくれるいくつかのルート」
早めに咲き終わった藤の花に代わり、こいのぼりが、青空のもとで気持ちよさそうに泳いでいます。また、園庭のけやきの青葉もすっかり生い茂り、大きな木かげを作ってくれています。たとえコロナ禍のもとであれ、季節の変化は変わりなく、子どもたちの元気な活動も、全くかげりが見えません。多くの仲間との長時間の接し合いが、免疫力を生み出しているのでしょう。子どもの天国の雰囲気を保っていけるよう、私たちも気を配り続けます。
ところで、毎日目の前で元気に活動している子どもたちが、みるみるうちに成長していく姿には、目を見張るばかりです。しかし私たちが、ただ黙って見ているだけでは、正しい方向へ進んでいくとは限りません。子どもの成長の特徴をよく学び、よく観察して導いてやるからこそ、内容の伴った成果が望めるのです。そのためのルートがいくつか考えられますので、ご紹介しましょう。
① まず第1は「敏感期」です。これは、0才から7才頃までに表れる、あることがらに夢中になる時期で、子どもは次から次へとマスターしていきます。例えば0才から5才の間の「運動の敏感期」では、とにかくいつも身体を動かし続けて、筋肉の正しい使い方を覚えていきます。0才から3才位までの「秩序の敏感期」では、やたらと小さいきまりや規則にこだわり、自分の中の秩序感を育てていきます。2才から6才頃までの「感覚」や「言語」「算数」の敏感期には、その対象となるものを、大した努力もせずに理解していきます。面白いのは、5才から7才までの「文化」に関することで、これまでより広い視野で、宇宙・地球の歴史・地図や国旗・動物や植物の種類・世界の文化などに、目を輝かせて取り組んでいます。
② 次は、それぞれのモンテッソーリ教具が持っている「系統性」です。「感覚」「言語」「算数」の教具は多種多様ですが、「系統性」といって、子どもたちが進むべき順序がはっきりと示されています。内容的には、「単純なものから複雑なものへ」「具体的なものから抽象的なものへ」「ひとつの作業が次の作業の手がかりとなって準備されている」ことなどです。子どもたちは、無理なく自然にこのルートをたどっていきます。
③ さらにもうひとつ、「たてわり保育」の中で生活することによって、いろいろな仲間の成長を身近に見ていくことができます。子ども時代は、1才の年令ちがいで大変な差が生じますから、その差を毎日身近に感じながら、後をたどっていけばいいのです。
子どもの脳は、8才までに90%成長するそうですが、成長のための良い環境の中でしか、中味のつまった脳はできあがりません。今回述べたいくつかのルートは、まさに良い環境の好例なのです。自分たちの生活のなかに、このルートがしっかりと敷かれているからこそ、あのはつらつとした成長ぶりを見ることができるのです。
理事長 江口 浩三郎より
「自分で考える子どもが一番伸びる」

新入園児も進級園児も、成長への願いで胸をふくらませて活動が始まる新学期が始まりました。昨年から続いたコロナ禍は、まだ依然として続いていますが、子どもたちの集う場は別世界です。なんの雑念もなく、今のこの時と目の前にある環境のなかで、全力を尽くしています。短い時間で、自分の成長をはっきりと感じていきます。驚きと新鮮さでいっぱいなのが、子どもの世界なのです。さあこの1年、この世界に入れてもらって、みんないっしょに楽しんでいきましょう。
ところで、よく新聞などで目にすることですが、「厳しい指導をやめて、選手自身で考えさせて練習するようになってから、チームがぐんと強くなった」という話です。選手個人の自主性、自発性の尊重が、各監督の指導と同じ結果をもたらしたわけです。そしてこのことは、子育てにもぴったりとあてはまります。
① 私たちおとなは、子どもがまだ未熟で幼稚なものとして、つい口を出したり手を出したりしがちです。必要最低限ならいいですが、つい度を過ぎることが多くなりがちです。「自発性」「積極性」のかたまりである子どもにとって、こんな迷惑なことはありません。モンテッソーリは先生に必要な資質として、「愛情」「信頼」「忍耐」「謙虚」を挙げていますが、要は、一歩下がって子どもを暖かく見守りなさいということです。このことが、後になって大きく後悔するかしないかの分かれ道になってくるのです。
② 自発性に満ちた子どもは、毎日「何をやろうか」「どんな道具を使おうか」「どんな手順でやろうか」「誰といっしょにやろうか」を考え続けています。そのことが実行可能となるように、子どもの成長に必要な環境を整えておくのが、私たちの役目です。幸いなことに、子どもには「敏感期」があるので、どの子がいつ頃どんな活動をやるのかの予測は可能です。そのためには、先生がひとりひとりの子どもをよく観察し、その子の順調な成長への足どりを、常に確かめておく必要があります。
③ こんな環境で育つ子どもは、「愛情に満ちた幸福感」を味わいます。また「自発性」や「環境」に刺激されて、脳が順調に発達していきます。自分の活動に自信を持ち、成果を喜び、さらにチャレンジ精神を発揮していきます。そして、自分がどんな人であるかを確かめていくのです。だから、「口を出さず」「手を出さず」に見守っていきましょう。子どもといっしょに、実りある人生を楽しんでいきましょう。
理事長 江口 浩三郎より