「意思通りに動く身体〜お茶会にて・・・」

先日、秋晴れの気持ちいい空のもと、大濠公園に遠足に行ってきました。そして今年も、3・4歳児が公園の林でドングリ拾いに夢中になっている間、しばし和式の広く優雅なお茶室で5歳児ミドリさん達とともに美味しいお茶をいただきました。リュックを担いで到着したミドリさん達、庭園までの道のりは「どんなお茶飲むのかな?」「お菓子あるってよ♡」など少し興奮気味でしたが、お茶室に足を踏み入れた途端、静かに靴を脱ぎ、きれいに整列して部屋に入っていきました。子ども達が騒いだりおしゃべりしたり大変だろうと予測した着物姿の司会の方、マイクを片手に登場しましたが、きちんと正座をしてシーンと静まり返った子ども達には、マイクなど全く必要ありませんでした。お茶を飲む作法の説明をしっかりと聞き、質問されれば手をあげて答え、お茶が出されると見本で見せてもらったように三つ指でしっかりとおじぎをし、ゆっくりと両手で茶器を持ち上げて飲む子ども達。洗練された動き、抑制力を持って行動する素晴らしく立派な姿に感動しました。
ほんの少し前までは、バタバタと気の向くままに衝動的に行動していた子どもが、なぜこんなに抑制の効いた優雅な立ち振る舞いができるようになったのか、本当に子ども達の早い発達にはびっくりさせられます。
人間は、生まれてから2歳ごろまでに、二足歩行や走る・登るなどの基本的な粗大運動を発達させますが、2歳半ごろからは少しずつ自身の動きをより「洗練」させるための無意識の努力が始まります。単に気の向くままに動き回るような発達の段階から、少しずつ、日々の生活や活動の中で手や身体を、意志を使い目的を持って動かしながら、その動きをさらに細かくコントロールできるように洗練させていきます。
モンテッソーリは、この動きの洗練にとって一番大切なことは、「自由に自分の意志で」動いてもらうこと、だと言います。自由に自分の意志を使いながら行動することにより、その動きを「抑制」できるようになる、とは少し矛盾するようですが、本当にそうなのです。自由に手を動かし体を動かし、どんどん意志通りに動く身体を完成させていく子ども達。こんな努力を惜しまない子ども達に対して、私たち大人は少しでも手出し・口出しで邪魔することのないようにしたいと思います。
お茶会も終わりお茶室を後にする私に、スタッフをされていた方から「こんなにお行儀のいい園児さん達、見たことがありません」と声をかけられ、本当に立派だったミドリさん達の振る舞いをとても誇らしく感じ、嬉しい思いで一杯になりました!
園長 大原 青子より
「より良い人間になるための仕事」

まだまだ暑かった前の月と比べると、風も随分と秋らしく心地よくなってきましたね。夏の間に子どもたちを暑さから守ってくれていた園庭の木々も落葉を始め、ここからは子ども達、先生、業務の方々ともに、落ち葉掃除で毎日大忙しです。
さて、つい最近のことですが、乳児クラスの主任の先生から、この落ち葉掃除のとてもいい話を聞きました。朝9時、園庭で遊んでいる乳児さんたちがお部屋に入る頃、落ち葉を掃いてくれていた2歳児の女の子から「せんせ〜、いっしょにしよ〜」と掃き掃除に誘われたそうです。主任の先生は9時にはお部屋に子ども全員を戻さなくてはと思い、一瞬とまどったそうですが、一生懸命掃除をしてくれていた子どもからのせっかくのお誘いだったので、一緒に掃き始めたそうです。10分ほどある程度の落ち葉を掃いた後、「もうそろそろ終わろうか?」と言うと、「こっちにもまだあるよ」「ここにもあるよ」「こっちもね」と、全くやめる気配なし。少しずつ掃いては、集めた落ち葉を篩にかけて砂や小石をはらい、園庭の堆肥置き場に持って行って入れる、という作業を、繰り返すこと1時間半(!)、結局、園庭中の落ち葉を端から端まで一枚も落ち葉がなくなるまで全て掃ききってしまったそうです。
この話から、私はモンテッソーリの言う「人間の傾向性」の話を思い出しました。モンテッソーリは、人間には動物にはない幾つかの持って生まれた「傾向」があり、それらは、私たち人間が人間らしい特性を獲得するために役立ってくれます。傾向性には「コミュニケーションをとりたい」「探求したい」「想像したい」「社会的な存在になりたい」など様々なものがありますが、この2歳児の行動の中には、その中のいくつかの傾向性を見てとることができる気がします。
①「仕事がしたい」
何か自分のできる仕事を探し、仕事をしていく中で手や道具を使う術を獲得していく
②「繰り返したい」
作業を何度も繰り返しやることで、できないことでも徐々にできるようになる
③「正確にしたい」
作業の中で、自己訂正を積み重ねることで、少しでも正確にできるようになる
④「秩序正しくやりたい」
作業の目的が達成するように、筋道立てて順番通りにやる。
こんな子どもたちの生まれ持ったより良い人間になるための傾向性が存分に発揮され、その「やる気」の火を消さないように、上手に援助していきたいものですね。
園長 大原 青子より
「抽象の世界へようこそ」

先日は、超大型台風がやってくるということで、どれくらいの被害が出るか非常に心配しましたが、大したことにならずホッとしています。もうこの秋の災害情報は、これくらいにしておいてもらいたいですね。
ところで、以前私が園長の頃、皆さまへの話の中で問いかけていた質問がありました。「小学一年生のランドセルの中には、何が入っていますか?」と。答えはもちろん教科書ですが、言いかえればそれは「文字」や「数字」、すなわち「抽象の世界」なのです。
生まれて間もない0才1才の頃、子どもは自分で直接触れたり見えたりするものでしか、環境を確かめることが出来ませんでした。それがほんの6年で、抽象の世界へ入っていくことになるのです。ですから私たちは、全く無理のないスムーズな方法で、そのことを可能にしなければなりませんが、ここで大いに役立ってくれるのがモンテッソーリ教具なのです。かいつまんで説明しましょう。
① 日常生活の練習…日常生活で使用する道具には、全て名前があります。また道具を使って作業するものにも呼び名があります。子どもは、作業を通じてその全てを覚えていきます。さらには横で聞いただけで、名前や呼び名をイメージできるようになります。
② 感覚教具…感覚的な体験を明確にイメージして理解するのは、簡単なことではありません。しかし子どもは感覚教具を手で触れ、においをかぎ、舌で味わいながら、イメージを整理し理解していくのです。感覚教具が「具体化された抽象のシステム」と呼ばれるのももっともなことです。
③ 算数教育…最初は数量(具体的)、数字(記号・マーク)、数詞(ことば)の三者関係の理解から始まります。その後、色々な教具の活動を経験し、最後は、かけ算、わり算、暗算へと進み、記号としての数字を理解していきます。
④ 言語教育…算数と同じように、最初は具体的、名前(文字=記号)、呼び方(ことば)の理解から始まります。最後は文章の書き方、手紙の書き方まで進みます。すなわち、記号としての文字の取り扱い方をマスターするのです。
⑤ 文化教育…「恐竜」や「宇宙」「世界の民族」など幅広い知識を吸収しながら、想像力、創造力を高めていきます。
生まれてまだ5・6年ですが、子どもの毎日の活動はこんなに充実し、全く無駄がありません。だからこそ1年生になっても、ランドセルの中身にうまく対応できるのです。ランドセルが子どもたちを、無限の世界に導いてくれると考えたら、私たちも楽しくなりますね。
理事長 江口 浩三郎より