「子どもが幸せを感じるとき」

園庭のけやきが若葉をいっぱい茂らせ、今年も暑い日ざしから子どもを守ってくれそうです。
また、満開のつつじの上ではこいのぼりがはためき、さわやかでにぎやかな風景が、目を楽しませてくれています。
新しい制服が目立つ子どもたちの動きも、負けじと活発です。チャレンジ精神まる出しの毎日ですから、たくましく成長してくれることでしょう。
ところで私たちは今、一度きりの人生を生きています。子どもたちも同じことですが、これから続く長い人生を、「自分は幸せだ」と感じ続けてもらいたいものです。そのために大事なことは、スタート時点である今現在であり、そのための雰囲気や環境づくりは、私たちの手の中にあります。そこで、どんな手を打っていったほうがいいのか、いくつかのことを考えてみましょう。
① 自分は愛されていると感じさせること…周りの人から誕生を祝われ、成長を喜ばれ、ひとりの人間として認められることは、子どもの深い満足感を与えます。自分の存在を肯定し、価値観を高め、この世界の中での楽しみを味わってくのです。どうぞ、たっぷりと愛を注いでやってください。
② 安定した気持ちで過ごさせること…毎日の生活が安定しバランスがとれていると、子どもも安定しバランスのとれた人格を作っていきます。子どもは、まだ全てにおいて未熟で自信不足ですから、周囲の環境に過敏に反応しがちです。ですからまだ幼い時は、できるだけ波風を立てない、おだやかな雰囲気の中で過ごさせるようにしましょう。
③ 多くの仲間と過ごしていく…人には「群生本能」があり、ひとりで生きていくことはできません。ただそうは言っても、みんなが自分とちがう人間なので、その中でうまくやっていくのは大変なことです。だから多くの仲間と交じり合いながら、トレーニングをやっていきましょう。そして少しずつ他の人間とのつき合い方を覚え、さらにはその中で、自分の心地よい居場所を見つけるようになります。まさに幸せを感じる時です。
④ 自分の敏感期に応じた環境が用意してある…誕生後6才位までに、子どもには様々な敏感期がやってきます。モンテッソーリはこのことを、「神が与えた宿題」と呼んでいますが、この宿題は必ず確実にこなしていかなければなりません。さもないと正常な発達が阻害され、さらには自分自身を見失うことにもなりかねません。敏感期を満足させる環境にいる子どもは、毎日生き生きと活動し、当然幸せな気分にひたるのは当然なことでしょう。
以上、子どもが幸せな気分になれることをいくつか挙げましたが、幼い頃のこの体験は、その後の人生においても必ず再現しようとするはずです。また自分だけでなく、周りの人たちへも伝染させていくはずです。人生のスタート時というのは、本当に大切な場所なのですね。
理事長 江口 浩三郎より
「どんな変化の中でも生きていけるように」

桜の花やけやきの若葉といっしょに、またたくさんの新しい友だちを迎えました。50年続いているエミールこども園ですが、この季節が新鮮で華やかになるのは、全く変わることのない雰囲気です。
世の中は、コロナやウクライナと波風が立っていますが、一番大切な子どもの時代に、冷たい風を当ててはいけません。おだやかで安心して過ごせる時間が流れるように、今年度も心がけていきたいと考えています。
ところで、近年の社会の変化はめざましいものがあります。私の若い頃は、三種の神器(テレビ・洗濯機・冷蔵庫)がうらやましがられ、マイカーは夢の世界でした。それに対し現在は、「IT技術の進歩」「AI(人工頭脳)の導入」「脱炭素社会」と全く別の世界を見るようです。この世界でいきていく子どもたちは、当然この変化に対応し、自分のものとしていかなければなりませんが、そのためには、今どんな準備をする必要があるのか考えておくのも大事かと思います。
① 幅広くかつ深みのある多様な環境の中で活動させていく…変化への対応には、視野の広さや精神の柔軟性が求められます。だから、そのことを可能にする知性の発達は、まだ幼い頃から無理なく順調に促す必要がありますが、クラスに展開しているモンテッソーリ教具は、それを可能にしてくれます。
② 変化を取り入れながら、自分から進んで問題を解決していく…目の前に展開される変化に背を向けず、自分でどう対応すべきかの問題を見つけだし、解決していこうとする気持が必要です。毎日の園での活動の中で、この点についても充分養われているものと信じています。
③ しっかりと自分というものを持っておく…変化への対応は必要ですが、変化の波に流されてしまっては、自分を見失ってしまいます。そうならないためにも、幼い時からまわりの愛情をいっぱい受け、一人前の人間として尊重されながら、自信や誇りに支配された自分自身というものを自覚していなければなりません。
④ 強い絆の人間関係を築いておく…どんなに大きな変化があろうと、人が生きていくのを支えるのは、人と人との「きずな」です。そのためにも他の人を愛し興味を持ち、固く結ばれた人間関係を築いていかなければなりません。どんな時でも、変化への対応の手助けとなってくれるからです。
変化のある社会というのは、発展し続ける社会ということで、生活の改善をもたらします。だから、変化の波にうまく乗っていけば、明るい未来を自分のものにできることになるでしょう。そのための、子ども時代の過ごし方という課題が、今私たちに投げかけられているような気がします。
理事長 江口 浩三郎より
「巣立っていく子どもたちが育ててきたもの」
ここ数日冷たい風が吹いていますが、間もなく春の暖かい風に変わることでしょう。それにしても、北国の雪とのたたかいは大変なことですね。
園では、「こままわし大会」や「なわとび大会」など、毎日の練習の成果の見せ場が続いています。この1年間、子どもたちみんなが、いつも何かに夢中になってきたことのあらわれでしょう。あらためて、この子たちへの敬いの気持ちでいっぱいのこの頃です。
ところでみどり組さん64名は、この3月をもって新しい所へ巣立っていきます。毎日当たり前みたいに、登園・降園を繰り返してきましたが、その時間の内容がなんと濃ゆいものであったことでしょう。その中で、子どもたちはどんなものを育ててきたのか、いくつか思い浮かべながら紹介していきたいと思います。
① 自主・自立の精神…園での生活は、先生の指図・指導は最小限で、子ども自身の意思に基づく行動が優先されます。だからいつも、自分が今何をしなければならないのかを考え続けなければなりません。まさに「生活の主人公」としての毎日で、そこから「自主」「自立」「主体性」といった気持ちが生まれるのは当然のことでしょう。
② 自信…子どもの能力・体力は、毎日増加し続けていきます。そこでは当然、目の前の環境も変化していきます。言いかえれば、今まで出来なかったこと、やったことがないものにも取り組まなければならなくなります。しかしそこで見せるのは、呆れるほどの粘り強さです。出来るまで集中し続けます。そして目標達成後の、自信と誇りに満ちた顔の何と素晴らしいものでしょう。
③ 論理的・抽象的考え方…子どもは少しずつ、文字や数字という「記号(マーク)」の取り扱いにも慣れてきました。また文化教材を通じて、手で触ることのできないもの、目の前にないものについても理解が及ぶようになってきました。その効果として、順序を追い筋道を立てて考えることや、想像力を働かせ、創造性に充ちた活動を発見し、実行できるようになってきています。
④ 社会性や協調性のある生活能力…毎日、多くの友だち(自分とちがった人)に囲まれ過ごすうちに、そのひとりひとりと、どんな付き合い方をしたら仲よくやれるのかを学んでいきます。人との出会い・つき合いが全てといわれるほどの人生ですが、園での生活は、そのトレーニングの場としては最適です。
以上いくつかのポイントを述べてきましたが、そのすべては、いかに自分を大切にし、自分の人生は自分のものであるかを実行していくためのものです。そのための土台はもう固まっています。私の卒園児を見る目の信頼感は、まさにそこにあるのです。
理事長 江口 浩三郎より